日本の鉄道インフラと環境問題に貢献する「鉄道車両部品業界」をご紹介します
公共交通機関の中で最も使われている鉄道は、私たちの生活に無くてはならない生活基盤です。
コロナ禍の影響で利用率が下がった鉄道業界ですが、CO2排出量が非常に低く、カーボンニュートラルの観点で注目されている移動手段です。
今回は鉄道業界と密接であり、裾野が広く理系学生の専攻分野を活かしやすい鉄道車両部品業界についてご紹介します。
鉄道車両部品業界とは
鉄道車両部品とは鉄道車両を構成する部品のことで、電気によって動力を生み出す主電動機や、車輪、ブレーキなど、様々な部品があります。
業界の構造としては、鉄道車両の運行を行う鉄道会社があり、鉄道会社とは別の企業が鉄道車両を生産しています。
鉄道車両メーカーには、鉄道会社の傘下である日本車輌製造、総合車両製作所、近畿車輛や、独立系である日立製作所、川崎車両があります。
鉄道車両部品メーカーは鉄道車両部品を生産し、それらの鉄道車両メーカーに販売します。
鉄道車両は数十万点にも及ぶ多種多様な部品から構成されるため、製造には非常に多くの部品メーカーが関わっています。
鉄道車両部品とは
ここでは、多種多様な鉄道車両部品について、分類分けをしたうえでご紹介します。
鉄道車両には、軽油を燃料としたディーゼルエンジンで動く汽車や、石炭を燃料として発生させた蒸気で動く蒸気機関車などもありますが、鉄道車両全体の80%を占める「電車」の部品についてご紹介します。
電気機器
電車は、変電所から線路に沿って張り巡らされている架線と呼ばれる電線から電気を得て、動力に変えています。電車の屋根上に取り付けられているパンタグラフという電気を受け入れるひし形状の装置が架線に接触することで電気を取り入れ、モーターを回し、使われた電気はレールを通って変電所に戻っていきます。
このように、変電所→架線→電車→変電所という電気回路ができ、電車は電気を得ることができています。
電車にはパンタグラフの他にも様々な電気機器が使われており、パンタグラフから得た電気を使用時に調整する制御装置や、自動列車運転装置、冷暖房装置、ライト、モニタなどがあります。
動力伝達・ブレーキ装置
電車は、主電動機と呼ばれるモーターによって動力が生み出されます。
動力伝達装置の部品には、主電動機の他にも、モーターの回転を車輪に届けるための歯車や車軸、変速機などがあります。
ブレーキをかけるときには、合成樹脂などによって作られた制輪子を車輪に押し付けることで減速します。制輪子を動作させる方式としては空気ブレーキが最も多く使われており、コンプレッサーによって作られた圧縮空気でブレーキ管に圧力をかけ、ピストンを介して制輪子を動かします。
車体及び台車
乗客が乗っている部分を車体といい、車体を載せて走行させるための部分を台車といいます。
車体は、普通鋼、アルミ合金、ステンレスから作られており、近年は劣化のしやすさや強度低下の起きやすさから普通鋼が使われることは減ってきています。
台車は、車輪と車軸を組み立てたものである輪軸や、輪軸と台車、台車と車体を結合するバネ、油の流体抵抗により車両の揺れを抑えるオイルダンパなどの部品から構成されます。
その他装飾品
これまで紹介した、電車を走らせ、制御するための機器の他にも、扉や窓、座席、吊革、トイレなどによって電車は構成されています。
鉄道車両部品業界の現状
新造車両の生産額、生産車両数と鉄道車両部品の生産額の推移を図(出典:「政府統計の総合窓口(e-Stat)」国土交通省 鉄道車両等生産動態統計調査)に示します。
どちらも2012年以降順調に伸び続けていることが分かります。車両本体、車両部品共に国外への輸出比率は低く、国内での販売がメインとなっています。
鉄道車両部品の生産額の推移のみを見る限りコロナ禍による影響は無いように見えますが、今後も同様に影響がないとは限りません。
鉄道車両の生産には1年〜3年かかると言われており、景気によって投資を控えたときに生産額に影響が出るのも1年〜3年後になる可能性があります。
そのため、コロナ禍による影響が生産額に出るかどうかは今後も注視する必要があります。
鉄道車両部品業界の職種
ここでは、鉄道車両部品業界の技術系の職種についてご紹介します。
ひとえに鉄道車両部品業界といっても生産している部品の種類によって職種は変わるため、詳細は各企業のサイトを確認するようにしましょう。
研究開発職
研究開発職はR&D(Research & Development)と呼ばれる職種で、将来的に良い製品を世に出すために新しい技術の開発を行います。
理系学生の専門性を最も直接的に業務に活かせる職種だといえます。
高い専門性が求められる職種であるため、修士修了以上が採用条件である場合も珍しくないため、応募をする前には採用条件を確認するようにしましょう。
設計職
設計職は、顧客からの要求や製品企画を基に鉄道車両部品の素材や構造を決める「機械設計」を行います。形状や強度などの要件を満たすだけでなく、製造にかかるコストや製造期間、環境への影響などを考慮し設計を行います。
また、部品によっては必要な設計は機械設計だけでなく、電気部品の場合は電気回路や基盤の設計を行う「電気設計」、電車の制御装置などの組み込みソフトウェアの場合は「ソフト設計」などがあり、機械系だけでなく、電気系、情報系の専攻も活かすことができます。
生産技術職
設計された製品を工場で製造するために、生産ラインの立ち上げ、管理を行います。
製造の一連の流れである原料の加工→組み立て→品質検査などの工程を設計し、効率的に製品が製造されるようにします。
一定以上の製品品質をクリアしつつ、生産コストの削減、製造期間の短縮を行うことが役割で、そのために新たな製造設備の開発や導入、生産ラインや工場内の機械配置の見直しなどを行います。
品質管理職
生産された鉄道車両部品の品質を保証及び改善するために、生産工程の管理や、生産後の品質検証を行います。製品や、製造に関する知識が求められ、設計職や生産管理職など生産に関わる様々な部署と関わりながら、工程管理、品質改善を行います。
鉄道車両部品業界の今後の動向
カーボンニュートラル
2050年カーボンニュートラル宣言や地球温暖化対策計画に伴い、鉄道業界は様々な影響を受けています。
車、バス、航空など他の輸送手段に比べて、鉄道のCO2排出量は圧倒的に少なく、鉄道の利用率を上げることが重要視されています。
また、現時点でもCO2排出量の少ない鉄道ですが、鉄道運行時のさらなるCO2抑制が求められています。そのため、鉄道車両部品メーカーは省エネ製の高い技術の研究開発や、製品化が求められています。
世界市場への進出
人口減少が続き、鉄道の利用者数が減少している日本国内では、長期的な鉄道需要の増加はあまり見込めません。
世界では、発展中である新興国を中心に鉄道需要および鉄道車両需要の増大が見込まれています。
現在では世界シェアの低い日本の鉄道車両及び鉄道車両部品ですが、製品の性能の高さという強みを活かして世界シェアを広げていくことが今後重要になっています。
まとめ
今回は鉄道車両部品業界について、鉄道車両部品の種類や、業界の現状や動向、職種についてご紹介しました。
鉄道業界はコロナ禍により大きな打撃を受けましたが、現状は鉄道車両部品業界の生産額には影響が及んでいません。しかし、鉄道会社の打撃が鉄道車両部品業界に影響を与えるのに1年〜3年ほどかかる可能性があり、今後も業界動向は注視する必要があります。
鉄道車両部品業界は非常に裾野が広く、電気部品や制御システム、鉄鋼、ゴム等の素材と様々な部品があり、理系学生が活かせる専攻もその分多くなります。
この記事を読んで鉄道車両部品業界に興味を持った方は是非、説明会に参加やOB・OG訪問等をしてみてください。
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