物流インフラに欠かせない「船舶業界」の技術職をご紹介します
近年、Amazonをはじめ世界中のありとあらゆるものをインターネットやアプリによって手に入れられるようになりました。商品やサービスへのアクセス性はインターネットによって格段に上がりましたが、それが物理的なものであれば、それを実際に「運ぶ」ことが必要です。
それを支えるのが物流業界であり、特に船舶を用いた業界を船舶業界と言います。
コンテナが港で積み下ろしされている光景を思い浮かべることができると思いますが、その中には、肉や魚などの食料品や工業製品、化学原料、薬品などが積まれ、大量のコンテナを一度に船で運んでいます。
そこで今回は、そんな船舶業界において理系学生が活躍できる技術部門の職種や仕事内容についてご紹介していきます。
船舶業界の技術部門
まず初めに、船舶業界とはどのような業界であるのかについてご説明します。船舶業界は大きく分けて3つの業種に分けることができます。海運業、造船業、保守点検業です。
海運業とは、船舶を用いて旅客や貨物を運ぶ業種です。
コンテナ船を使い定期的に決まった寄港地へ運搬する「定期船」、ばら積み船・タンカー・専用船などを使い、貨物に合わせた日程および寄港地で運搬する「不定期船」、国内や海外に向けた「旅客船」などがあります。
造船業は、造船所と呼ばれる広大な敷地において船舶を作ることが主な業種です。船を一隻造るというのは、巨大なプロジェクトです。
造船所では船の建造に直接関わる人だけでなく、設計、営業、事務など船の建造を支えるために多くの人員が働いています。
保守点検業は、海運業に使われる船舶を定期的に保守点検する業種です。船舶は一度建造されると、その耐用年数は15年〜20年ほどになります。
その間、船舶の安全は保守点検が確実に行われることで保たれています。
具体的には、船体、機関、電気、配管、塗装といった船舶の各設備について、それぞれ専門の知識を有した技術者が担当し作業を行います。
船舶業界の仕事内容
ここまで、海運業、造船業、保守点検業の概要についてご紹介してきました。
ここからは、これらの業種において、理系学生が活躍することのできる技術部門の仕事内容についてご紹介していきます。
海運業における技術系の職種
海運業はビジネスの最前線に立つ陸上事務職、船の一生に携わる陸上技術職、貨物や旅客を運ぶ使命を担う海上職というように職種が分かれています。
理系学生が技術者として関わることのできる職種は陸上技術職および海上職のため、それらの仕事内容や役割をご紹介します。
陸上技術職
陸上技術職では新しく造船する際や運航船の保守・管理への技術支援、それらの新しい技術開発などが主な仕事内容です。
新造船の建造では船型計画から設計および図面の承認、契約交渉および契約締結までを行います。新しい船舶に求められることは、環境に負荷がかかりにくい燃費性能の高さ、トラブル・不具合が発生しない安全性の高さ、実際に乗船する乗組員にとっての使いやすさ、コストの妥当さです。
上記を踏まえ、基本仕様の策定、設計・図面承認、そして船価交渉まで担当します。
そして、新しい造船が始まると、実際に造船所の建造現場に駐在し、品質や工程管理の監督業務を行います。
また、運航船の保守・管理とは、運航船から得られる技術情報を収集・蓄積・分析し、運航船のトラブル対策や保守・修繕・改造支援に活かすことで高い水準での安全運航の実現を目指します。
すなわち、新たに開発された技術や機器の実装を通した最適な改造を担う業務です。
そして、技術開発業務は主に運航船のデータ活用や新たな推進機の開発など、より安全で効率的な運行を実現するために必要な技術開発を担う業務です。
船舶の大型化など目覚ましい技術革新や国際規則などのルールやニーズも多様化されてきています。それらの信頼性やコストなどの評価を行い、船舶業界の将来に向けてより良い技術を確立する役割を果たしています。
海上職
海上職は、船舶の安全な運行に関して最も直接的に携わることのできる職種です。船舶の運航は主に機関士と航海士によって成り立っています。
機関士は船内のエンジンやボイラー等の巨大な機関プラントを管理することが主な仕事です。
主な仕事は2つあり、機関プラントの運用と保守点検です。
機関プラントの運用とは、船の原動力である各種エンジンを常時止まることなく動かし続け、安定した航海を担保することです。船を運転するなかで異常があれば、その原因特定をし、対策を施します。
機関プラントの保守点検とは船のエンジン等の設備が正常に動くように事前に保守点検をすることです。
船の運航にはエンジンだけでなく、電気や水、蒸気も必要不可欠です。そのため、多種多様な機器や配管が船内の至るところに配置されているため、それら一つ一つを細部まで知り尽くし、絶えず正常に機能するように監視やメンテナンスを続ける必要があります。
航海士も主な仕事が2つあり、航海と荷役に分けられます。
航海は船を操ることであり、目的地まで最適な航海をするため、航海ルートを策定し、船の針路を自ら判断し決定します。
また、航海・無線計器の保守点検に至るまで、実務的な航海業務全般を担当します。
荷役は貨物を守ることであり、預けられた貨物を安全に目的地まで届けるため、貨物を積み込むところから、船上での保守、そして無事に降ろすところまで、一貫して担当します。
造船業における技術系の職種
造船業の仕事はただ金槌を叩くことだけではありません。コンピュータによる設計、テスト、実験等のIT技術と、人の手による匠の技とのコラボレーションによって成り立っています。
全長300mを超えるような船を建造することもあり、このような巨大なプロジェクトを完成させるためには、造船所で働く各部門の技術者が計画通りにそれぞれの役割を果たしていく必要があります。造船所の技術者は、計画及び開発部門、設計部門、調達部門、生産部門に分かれており、各部門において求められる知識は様々です。
それぞれの部門ごとの仕事内容をご紹介します。
計画・開発部門
これまでに造った船の経験を生かしながら、新たな船づくりに挑戦する部門です。
高性能、省エネなどさまざまな要素において研究を積み重ね、新しい船舶開発を進めていきます。
特に最近では、燃料の高騰や地球温暖化問題が社会的な問題となっていることから、省エネ・環境にやさしい船の開発を行う必要性が出てきています。
仕事内容は、コンピュータを使って模型でテスト・実験等を行い、時には電機や機械メーカー、製鉄所などと共同開発・研究をすることです。
また、船は、国連の組織である国際海事機関(IMO)の国際ルールに適合している必要があるため、設計・開発段階から国際ルールの動きに注視する必要があります。
設計部門
開発された新しい船の設計を担当する部門です。
船舶の設計には、船全体と重要な部分を設計する「基本設計」と、船体の各部分ごとに部材の形や、加工方法まで細かく設計する「詳細設計」があります。
営業およびマーケティング部門が作成した基本計画をもとにして、これまで研究開発した成果を発注主の要求に対応させるよう設計を行います。
設計は、コンピュータの画面上でCADなどのシステムを駆使しながら進められます。
調達部門
鋼材、パイプ、電線、塗料など船をつくるのに必要なものから、エンジン、航海機器といった船を動かすのに必要なもの、船内で生活するのに必要なものの購入から納期管理、支払い手続きまでを担当します。
新しい船をつくる場合、一般的にはコスト全体に占める資材費の割合は6割〜7割で、1隻の船に使われる材料(鋼材)や機器(エンジン、スクリュー、計器)は数万点あります。優れた材料や機器を調達することも重要な仕事となります。
また、顧客が満足する製品を提供するために、購入先の選定・開拓・信用調査、また各製品の在庫管理および通関業務も行います。
生産部門
設計に基づき、船舶を建造する部門です。
船舶の建造は、ロボット化が進んでいるとはいえ、人の手による熟練の技が活かされています。
特に、曲面がある溶接作業は機械化が難しいため人の手によって行われることが多いです。
また、生産の流れを管理することも重要な仕事であり、鋼材の切断から試運転および引き渡しまでを一括して管理します。
保守点検業における技術系の職種
上述したように、船舶の耐用年数は20年近くにまで及びます。よって、船を長持ちさせるには適切な保守点検の必要があることは明らかです。保守点検業は船そのものの修理から船内の各設備の保守点検など、幅広い内容を指すことが一般的です。
ペンキ塗りのような基本的な作業から、主エンジンの交換といった大きな工事まで、次の航海が安全に行えるように修理します。時には、船の用途を変更するための改造工事や船体の延長工事など様々な工事を行います。
主な職種としては、船の修理・メンテナンス・改造の各工事における中心的存在となる船舶技師、各工事におけるエンジニアリング事業を担う設計担当、実際に現場で工事を進める職人である技能担当があります。
船舶技師は工事のまとめ役となり、顧客の要望や船の状態を見極め、作業方法を決定し、現場の職人に指示を出し、工事全体の工期を管理していく仕事です。
設計担当は、既存の船を改造することになります。そのため、パソコンに向かって設計するだけではなく、顧客の要望を伺い、船の状態を確認し、現場の作業者に工事の進め方をアドバイスする等、単なる設計作業以上の幅広い役割を担います。
技能担当は最前線で船と対峙する技術者集団です。既存の船を手掛ける船舶修繕には、自動化や機械化が難しい作業が多く、一人一人の職人の技術力がその企業の力となります。
船舶技師、設計担当、技能担当は部署によって船体・機関・電気・配管・塗装と担当する船の場所で役割が決まっており、それぞれの箇所の担当でチームを組んで一隻の船を工事します。
船舶業界の特徴
ここまでは、船舶業界の職種と仕事内容についてご紹介してきました。ここからは、船舶業界の展望についてご紹介していきます。
景気による影響との関係が深い
船舶業界はその構造的な要因から、好不況の影響を受けやすい業種と受けにくい業種に分かれています。
海運業と造船業は好不況の波を受けやすいといわれています。好景気になると、物流量の増加に伴い運航船の需要が高まり、海運業界の運賃が高騰し、造船会社への船の発注量も増加します。しかし、船の完成には時間がかかり、早くても2〜3年先、発注が殺到したり、船が大型だったりすればもっと先になることもあります。
船が完成した頃には、船不足による運賃の高騰は落ち着いていることが多く、むしろ多くの船が完成するタイミングが重なれば、運賃は下落してしまいます。こうして業績不振に陥った場合、船の新造は行われず、やがて船が足りなくなってきます。
そして再び船不足により運賃が上がり、船を発注するということが繰り返されます。船の需要が高まったときと完成するときとのタイムラグに、様々な要因による世界経済の浮き沈みがからみ、海運業界は大きな好不況を繰り返すのです。
ただし、保守管理業は異なります。保守管理業の特徴として、船舶は1度完成すると耐用年数は20年ほどになるため、その間、適切な保守点検が必要となります。世界経済が回り続けるなかで、常にたくさんの船が世界中を航海しています。
それらすべての船が定期的に検査を受け、修理される必要があります。修繕は世界経済が回り続ける以上、景気に関係なく常に需要がある商売です。したがって、保守管理業は好不況の影響を受けづらい業種であるといえます。
今後の課題
船舶業界の課題としては、環境問題対策と人手不足が挙げられます。
船舶業界では、エネルギーを大量消費する業界としていち早く省エネルギー化が進められてきました。そして、使用される燃料は重油や石油由来であるため、地球温暖化や大気汚染の原因となる物質の排出には配慮が義務付けられています。
一方で、船舶に配備されている太陽光や風力発電システムでは、大型船舶を動かすのに十分なエネルギーを得ることができないのも事実です。よって、環境に配慮したクリーンエネルギーに関する技術開発が急務となっています。
また、人手不足に関しては海上職の人手不足と船員の高年齢化が挙げられます。なかでも若手の船員が不足し、現役船員の高齢化が指摘されています。一般的な職業に比べ平均年収は高めですが、業務形態が特殊な業種であることから特に海上職の離職率が高いといわれています。海上職は特殊な勤務体系であることには注意が必要です。
例としては、3カ月連続して働き、1カ月休むというパターンが多く、船舶という空間のなかで限られた人と長時間過ごすことにストレスを感じる人も少なくありません。よって、海上職を志望される理系学生は、ミスマッチを無くすためにもこの点に関して納得することが重要です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
本記事では船舶業界において理系学生が活躍できる技術部門についてご紹介してきました。理系学生の中には、船舶業界について無縁であると感じている方もいるのではないでしょうか。しかしながら、船舶業界にとって理系学生は必要とされている人材であり、今後も無くならない職業として必要不可欠な存在です。
一方で、日常生活において直接的に関わることの少ない業界であるため、どのようなメリットやデメリットがあるのかについては十分に理解することが重要です。このような業界に少しでも興味を持っていただいて、皆さんの業界研究のお役に立てれば幸いです。
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