医療機器の仕組み・部品構成を紐解き、医療機器メーカー業界の構造を理解しよう

2023年7月10日 更新

医療機器メーカーは、人の命に関わる医療機器を製造しているという点からも、メーカー業界の中でも興味を持っている学生も多いと思います。

しかし、医療機器と一言で説明しても、実際には精密機械のような医療機器から、メスやピンセットのような1つの部品で構成される医療機器まで非常に多くの種類が存在します。

今回は、医療機器メーカーの業界構造と、代表的な医療機器を例に挙げ、どのように医療機器が構成されているのかをご紹介します。

医療機器メーカーにも専門分野や業態によって様々な種類の企業があることを理解していただき、医療機器メーカーに興味のある学生や、メーカー全般に興味のある学生などはぜひ業界研究のきっかけとして参考にしてみてください。

医療機器メーカーとは

医療機器の部品をご紹介する前に、まずは医療業界、医療機器メーカーについて概要をご紹介します。

医療業界は、医療に関連する業界の集まりで、病院や診療所といった医療機関、製薬会社や医薬品卸など医療に関わっている全ての業界を指します。

今回ご紹介する医療機器業界も医療業界の1つで、医療機器業界は医療業界の中でも医療機器に関連したビジネスを行う企業です。

医療機器業界の中では自社での製造は行わず、メーカーから多様な商品を調達し医療機関などに商品を納品する商社も存在しますが、今回取り上げる医療機器メーカーは、自社で医療機器を製造している企業が該当します。

医療機器メーカーの仕事内容や職種については、
理系の知識が医療に役立つ? 医療機器メーカーの仕事内容や将来性とは
の記事で詳しくご紹介しているので、こちらもぜひご覧ください。

求められること、特徴

医療機器メーカーの特徴として挙げられるのが、高い品質が求められる点です。

医療機器は製造した製品が体内に入る場合や、不具合が生じた場合、生命活動に影響を及ぼす可能性があります。
そのため、現在日本では医療機器を製造、販売するためには国の承認を得る必要があり、このことからも医療機器メーカーが医療機器メーカーが高い安全性、信頼性を求められることが分かると思います。

医療機器メーカーの業界構造

医療機器のメーカーと聞くと、富士フイルムやオリンパス、キヤノンなどの大企業をイメージする方が多いと思いますが、これらの企業が全ての部品を1から製造し、組み立てているわけではありません。

上記のような大型の医療機器を製造しているメーカーや大企業は、医療機器の設計や部品の調達を行います。
そして、部品メーカーから集めた部品を組み立て、完成品となる医療機器を製造します。

製品の中心的な技術などは、先ほど例に挙げたような大手の完成品を製造する企業が担当することが多いのも医療機器メーカーの特徴です。

完成品メーカーに部品を供給する企業は部品メーカーなどと呼ばれ、小型歯車などの精密小型部品やチタンやステンレス製のパイプなど、分野やカテゴリーを問わず、完成品メーカーが自社で製造していない部品を供給しています。

しかし、これらの小型部品は、半導体製造装置や航空機、電子部品、センサー部品、ロボット部品など様々な業界の製品の部品として使われているため、部品を製造する企業は医療機器に特化しているとは限りません。

部品メーカーは完成品メーカーの子会社の場合もあれば、様々な完成品メーカーに部品を供給しているケースもあります。

さらにこれらの部品を作るに当たっては、素材を専門的に扱うメーカーが部品メーカーに材料を供給しており、全体としてはピラミッド型の構造で成り立っています。

代表的な医療機器の仕組みを紹介

ここからは、医療機器を動かす仕組みや部品をご紹介します。

今回は大型精密機械に分類されるような代表的な医療機器を例に挙げ、医療機器が動く仕組み、そして医療機器における重要な部品をご紹介します。

MRI

まず最初にご紹介するのがMRIです。

MRIは、磁石と電波によって体内の状態を画像化する検査装置です。

MRIはドーナツ型のトンネルの機械の中に体を入れ検査を行いますが、このトンネル自体が巨大な磁石となっています。

人体の半分以上は水分(水素原子)で構成されているため、MRI装置で大きな磁場を発生させると、自然状態ではバラバラな方向を向いている水素原子核が一方向に向かいます。

そこに電波を当てることで、水素原子核が特定の方向に向かいます。

ここから電波を切ると、水素原子核は元の方向(状態)に戻っていきますが、このときに疾患のある部分は、戻るまでの時間が正常な部分と異なり、この戻る速度差を白黒で表現したものがMRIの仕組みです。

このように、磁場と電波がMRIの仕組みの中で重要になるのですが、ここからはMRIの部品の中で磁場と電波に関わる部分をになっている構成をご紹介します。

超電導磁石(静磁場用磁石)

超電導磁石とは、本体に搭載される磁石です。

この超電導磁石に永久磁石を用いるのか超電導磁石を用いるのかによって、MRIのタイプが変わり、超電導磁石が発する磁場の大きさが、性能を示す指標の一つとなっており、MRIの構成の中でも極めて重要な役割を担っています。

高周波コイル

MRIの仕組みで、水素に電波を当てることで、水素原子核が特定の方向に向かうと説明しましたが、水素原子核の向きを変えるために電波を照射する部分が高周波コイルです。

水素原子核の向きを変えるためには、水素原子核と同じ、高い周波数の電波を与えて、水素原子核と電波を共鳴させることが重要になります。

受信コイル

MRIの仕組みでは、水素原子核が戻る速度差を画像に反映していると説明しましたが、水素原子からの信号を受け取るのが受信コイルです。

受信コイルは、頭部用や腹部用など、撮影箇所を画像化するために患者さんに装着して使われるため、、頭部用コイル・脊椎用コイル・腹部用コイルなど、それぞれの装着するポイントに合わせたMRI用コイルが存在します。

受信コイルから得られたデータはデータ処理装置へ転送され、画像化されるため、受信コイルは高画質のクオリティを左右する重要な役割を果たしています。

CT(X線検査)

続いて紹介するのがCT、レントゲン検査(X線検査)です。

CT、レントゲンもMRIと同じく画像診断装置の1つです。
しかし、MRIとは体内の状態を画像化する仕組みが異なります。

MRIが水素原子の元の状態に戻っていく速さの差を表現するのに対し、CT、レントゲンでは、X線の吸収差を画像で表現しています。

X線は波長が非常に短く大きなエネルギーを持っているため、身体にX線を照射すると、身体を通過しますが、その一部は臓器や骨に吸収されます。
骨や水分、脂肪などの体の組織によってX線の通りやすさは異なるため、体を通過したX線の差を濃淡の影として画像化することで、人体の内部を撮影しています。

CTとレントゲンの違いは二次元情報か三次元情報かという点です。

どちらもX線を使うという点では同じですが、レントゲンが一方向からX線をあて、体の中を2次元的に画像にしたものなのに対し、CT検査は体の周りからX線をあてることで、3次元的の画像で表現されるため、疾患部分の形や広がりがより詳しく分かります。

X線管

CTやレントゲンの部品として重要になるのが、X線を発生させるX線管(管球)と呼ばれる装置です。

X線管の内部は陰極と陽極が収納されており高真空に保たれています。
陰極は熱陰極またはフィラメントと呼ばれ、加熱されることで電子を放出します。

X線を発生させる際には、まずフィラメントに電流を流して加熱し、加熱されたフィラメントから飛び出した熱電子を高電圧で加速させ、陽極のターゲットに衝突させるとX線が放出される仕組みです。

放射線検出器(X線検出器)

続いて紹介するのが、放射線検出器(X線検出器)です。
CTやレントゲンでは、上記のX線管から発生させ、透過してきたX線を画像に変換するのがX線検出器です。

X線検出器は、
X線粒子を光量子へ変換するシンチレーター
シンチレーターから放出される光を電流へ変換するフォトダイオード
などによって構成され、線放射を検出し、デジタル信号へ変換する役割を担っています。

近年では、X線検出器を従来の1列から、2列、8列、32列と多列化することによって、1回転で複数枚の輪切り画像を得ることが可能になり、短時間で広範囲を高分解能で撮影をすることが可能になりました。

透析装置

人工透析(透析療法)とは、腎臓の働きを人工的に補う治療法で、病気などの影響で正常に機能しなくなった腎臓の代わりに、血液中の老廃物や余分な水分を取り除きます。

透析の仕組みとしては、腕の血管に血液を取る用と返す用の2本の針を刺し、血管と透析機器をチューブで繋ぎます。
血液ポンプを使って血液を体外へ送り、ダイアライザー(人工腎臓)を通して老廃物や余分な水分を除去し、きれいになった血液を体内に戻します。

この一連の流れを循環させながら行うのが血液透析です。

透析を行ううえで重要になる医療機器がダイアライザー、透析用監視装置、透析液供給装置で、今回はそれぞれの役割をより詳しくご紹介します。

ダイアライザー

ダイアライザーは上記の透析の仕組みで説明をした、血液をろ過する役割を担い、腎臓の糸球体と同じ働きをします。

ダイアライザーは、筒のケースのような見た目をしており、筒の中には、細いストロー状の中空糸が約1万本束ねられて入っています。
この中空糸(細い管)の側面には大量の小さな穴が開いており、中空糸の中に血液を流し、管の周りには透析液が流れます。

中空糸に開いている穴は、水や小さな物質しか通さず、老廃物は、拡散及び濾過の原理により外側の透析液側へ移行します。
詳しく説明すると、中空糸膜の外側に透析液を循環させることにより、血液と透析液の濃度差を利用して、血液より濃度が低い老廃物などを、血液から透析液に排出し、また、血液中に不足する重炭酸イオンなどの身体に不足しているものは、逆に透析液側から血液中へ流入することで血液を浄化させるという仕組みです。

透析用監視装置

透析用監視装置は、患者さんの側にあり、透析を行うにあたり、透析液や限外濾過流量、血液ポンプ、抗凝固薬投与の制御、各液体の温度や注入量の調整など、透析システム全体を監視、調整する役割を担います。

透析用監視装置内には、制御システムが内蔵されていますが、これらはモーターで動くポンプや電磁弁が数多く使用されているのが特徴です。

透析液供給装置

透析を行ううえで、ダイアライザーと同じく重要なのが透析液で、その透析液を作製するのが透析液供給装置です。

透析液は透析液原液(A原液とB原液の2種類)と透析用水(きれいな水)を混合して作るのですが、上記の成分を所定比率で正確に混合して多量の透析液を調製するのが透析液供給装置です。

透析液供給装置は透析液の調整後、多数台の透析用監視装置に供給される多人数用供給装置と、個々の患者さんの透析液をベッドサイドで作成する個人用供給装置があります。

その他の医療機器に関する主要な部品やソフトウェア

ここまで、代表的な医療機器を例に挙げ、その主要な部品と仕組みについてご紹介してきましたが、上記で説明したMRIやCTの主要な部品以外にも、電源やモニター、ケーブルといった一般的にも利用される部品においても医療用に特化した製品が製造されています。
また、医療機器はハードの部品だけでなく、その機能を担うソフトウェアによっても構成されます。

ここからは、様々な医療機器に用いられる主要な部品やソフトウェアについてご紹介します。

電源

電源は今回ご紹介した、MRIやCT、人工透析器だけではなく、医療用ベッドや酸素濃縮器、ロボット手術装置、人工心肺装置、医療用ベッドなど様々な医療機器に使われています。

医療機器のみならず、電子機器の部品の中で一番大きいのは電源のため、電源をいかに小型・軽量化するかが、製品サイズに影響します。
また、医療機器で使用される医療用電源は、命に関わるため、常に稼働する高い信頼性が求められます。

そのため、医療用電源を製造するうえでは小型化、連続稼働ができる信頼性が重要です。

医用モニター

病院で使用される医用モニターも一般的なモニターとは異なります。

CT、MRI、超音波診断など医療機器の発達によって、大量の医用画像データが生成されるようになりました。
これらの医用画像の表示には、医療判断の誤りにつながらないよう、微細な画像を忠実に、かつ安定して再現できることが重要です。

そのため、医用モニターを製造するためには、医用画像表示の規格やガイドラインに適合していること、高画質であることや色域表現が広いことが求められます。

エンベデッド(医療用ソフトウェア)

エンベデッドシステムとは「組み込みシステム」のことで、医療機器に組み込むシステムのことです。

上記でご紹介したCTでも、X線検出器によって得られた画像を解析するためには専用のソフトウェアが必要になります。

近年、ICTやスマートデバイスの発達により、ソフトウェアを組み込んだ医療機器も普及したため、医療の発展とともに、ソフトウェアが果たす役割も大きくなっています。

しかし、医療機器のソフトウェアを開発している企業は、メーカーではなく、IT系の企業に分類されますので、医療機器に興味がある場合でも、自分自身が医療機器のどのような点に魅力を感じているのかを分析しながら、業界、企業を選ぶようにしましょう。

まとめ

今回は医療機器の業界構造、そして代表的な医療機器の仕組みにスポットを当てました。

医療機器メーカーと聞くと、MRIやCTなど精密で高額な医療機器を製造している企業をイメージすることが多いと思いますが、医療機器の部品の製造など様々な形で医療機器業界に携わることができます。

このような部品を製造している企業や専門性のある企業について調べる場合は、その企業が他者に比べどのような強みを持っているのかや、市場においてどれぐらいのシェア率を獲得しているのかなどを調べることによって企業の将来性を見極めるようにしましょう。

就活は今までに知らなかった業界や企業を知る大きなチャンスです。

特にメーカー業界は完成品を作る企業、部品を作る企業、原材料を作る企業というように、完成品を製造する過程で多くの企業が関わっています。

医療機器に限らず、1つの製品が完成するまでにどのような過程があり、どのよう企業が関わっているのかを調べることによって、業界、企業の選択肢を広げていきましょう。

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